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「僕は30代のほとんどの時期を、『週末おひとりさま』として過ごしてきました。金曜日、仕事が終わると部屋にこもり、月曜日の朝出社するまで部屋から一歩も出ない。そんな生活を10年近く続けていたんです。その僕の気持ちを、唯一ポジティブにしてくれたのが写真。カメラを通して写したいろいろな花や動物、景色が、僕を支えてくれました。だから今、僕は、同じような境遇にいる人たちの心の隙間を埋めていきたいんです。僕が大好きな写真を通じて」

はにわさとしさんは、僕の写真仲間のひとり。もともと旅行と写真が好きで外交的だったのだが、30代に入ったころから職場の人間関係のこじれなど、さまざまな要因が重なり人間不信になってしまう。徐々に人づき合いが面倒になり、親しかった友人たちとも疎遠になっていった。そして当時背負った傷は想像以上に深く、30代のほとんどを引きこもって過ごすことになってしまう。

だが彼は、偶然にネットで知ったブログ塾に参加したことをきっかけに変わっていく。外に出て行くことが楽しくなり、いろいろな人と積極的にかかわるようになっていったのだ。僕がはにわさんと出会ったのは昨年の夏。そのときは非常に明るくて社交的な方という印象を持っていたので、そんな過去の持ち主とは知らなかった。

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はにわさとしさん。とても明るく、社交的な方です。

そのはにわさんが、この春から「週末おひとりさまを楽しくする専門家」として活動していくことを決意。「週末おひとりさま」とは、平日は仕事をしているが、週末になると一緒に過ごす友人や恋人、家族などがおらず、たったひとりで休日を過ごす人たちのことを指す。今回、はにわさんが活動の一環として開催していきたいという「写真を通じて世界を見るワークショップ」に参加させていただいた。

会場は勝どきにある区民館。活動の最初の一歩として、今回初めて開催するこのワークは初心者向けの内容で、「好きな食べ物を撮る」と「野外で撮影する」の2つが主なプログラム。「写真を撮る楽しさを知っていただくことが第一の目的なので、技術的なことは教えません、このワークを通じて、少しでも写真へ興味が増してくれればうれしいです」と、はにわさん。

参加者は僕を含めて7人。それぞれに自己紹介をしたあとで、「なにはともあれ、まずは写真を撮ってみましょう」ということで、事前に持参した食べ物を被写体に各自が思い思いに撮影していく。ちなみに、はにわさんのワークは一眼レフカメラやコンパクトデジタルカメラを持っていなくても、スマホでも参加OK。「気軽な気持ちで参加していただきたいので、とくに使用するカメラを制限するつもりはありません」とのこと。僕は会場に来る前に買ったパンを撮ったが、他の参加者はお菓子やポッキー、みかん、おにぎりなどを持参していた。

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明るく話し上手で、接していて気持ちの良い方なのですが、こんな時代があったらしい。

「まず、好きなように撮ってみてください」

というので、机にパンを置いて、シャッターを切っていく。アングルを変えたり、置く場所を変えて撮るが、どうにもしっくりこない。とりあえず、何カットか撮る。

「ではみなさん、どうしてその食べ物が好きなのか、教えてください」

僕は昔からご飯も好きだけど、パンも好きで、とくにソーセージパンやコロッケパンが好きだった。理由はお腹にたまるから。たくさんは必要ないのだが、ガツッとしたパンを食べないとなんだか食べた気がしない。それに、おいしいしね。といったことを話す。

「では、その気持ちを持ったまま、もう一度撮ってみてください」

うーん、パンが好き。パンの気持ちになってみる。このパンはどう撮ってほしいのだろう?ちょっと考えて、こいつが口に入る方向から撮ることにする。「ここからかぶりついてね」と、パンが言った声が聞こえたわけではないが、僕はそうした。

「みなさん、好きな理由を自分なりに考えたと思います。そして、その結果、最初に撮った写真と違ったカットを撮った方も多いと思います。何が言いたいかというと、物事の見方っていろいろあるということ。ひとつの方向でなく、横や斜め、裏側など、ふだんは見えていないけど、確かに存在する部分がある。カメラを通して、そんなものの見方を知ってほしかったのです」

そういえば、先日まで講義を受けていた写真家の須田誠さんもそれに近いことを言っていた。写真を撮るときは物事の本質に迫れ、と。「カロリーメイトが好きです。携帯に便利だし、風邪をひいたときもいいですよね」「パリパリとした食感がチョコパイの一番の魅力ですね」「ポッキーは、名作です」などと、他の参加者が語る理由もそれぞれに違いがあっておもしろい。

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最初に撮ったパン。

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好きな理由を考えて・・・こう撮った。「さあ、かぶりつきな!」

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「チョコパイは食感が好き」

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「小学生のころに発売されて、ずっと好きです」

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「ポッキーは、1本で食べてもよし、複数本で食べてもよし」

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ワークの様子。

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「物事をひとつの方向だけでなく、いろいろな方向から見ると、楽しい発見があります」

「では、今日は天気も良いので、せっかくですから外でも撮影してみましょう」ということで、近くを歩きながら隅田川のほうに出る。歩きながら運河に停泊している船や勝鬨橋をパチリ。この日は風が冷たく、外に出ると肌寒さを感じたが、カメラを持った散歩はとても楽しい。参加者もそれぞれが思いのままに被写体を探して、フレームに収めていく。

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外に出て、停泊していた船をパチリ。

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なんとなく、クレーンが気になって。

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勝鬨橋。昔は開閉したそうですが。

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みなさん、それぞれに撮りたいものを撮っています。

「カメラを持って外に出るとワクワクしますよね。このワクワク感が大切。僕はそれで少しずつ友人ができるようになり、週末もひとりで過ごすことがなくなりました。写真を撮ることができるのは、いま、その場にいるあなただけ。刻一刻と流れている時間のなかで切り取ったその瞬間は、もう二度とは戻ってこない瞬間です。あなたがシャッターを押したそのときは、一生に一度しか巡ってこない瞬間なのです。この楽しさを、僕は伝えていきたい。そして、週末をひとりで過ごしているであろう多くのみなさんを、たくさんの仲間と過ごせるように手助けしていきたいんです」

そんな志を持ったはにわさんは、この活動が大きくなったら、インタビューを通じたコミュニケーション講座や、ツアー旅行なども企画していきたいと語る。それは、旅行代理店のツアーコンダクターや新聞記者を経験している、はにわさんならではのプログラムだ。

はにわさんの夢は、いまスタートしたばかり。今回のワークも初めての開催だったので、まだまだ改善の余地もある。だが、自身の夢を語るときのはにわさんは、少年のようにキラキラした瞳で、本当に楽しそうだ。写真を撮る仲間として、夢を持つ仲間として、僕はこれからも、はにわさんの活動を応援していきたい。


【はにわさとしさん HP(週末おひとりさまブログ)】
http://haniwap.com/category/blog/shumatsu
※タイトルの肩書きは「トラベルフォトライター」ですが、今後は「週末おひとりさまを楽しくする専門家」としても活動していくそうです。


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