「悩んだり、迷ったりしたら、ここに来い! 俺が、俺が歌ってる、この場所に!」

全20曲を歌い終えた彼の顔には、満足げな微笑みが浮かんでいた。

「変わってないな」
10年前と同じ、ややハスキーなあの声。笑うと目尻が下がるあの笑顔。

10年分年を重ねたけれど、淘汰の激しい世界でその間もずっと、
彼は愚直に音楽を続けていた。自分の信念を貫いて。

2014年12月10日、新宿LOFTでは
11月に発売したニューアルバム『THE SECRET EDEN』の発売を記念する
ワンマンライブが行われていた。

それは、僕が約10年ぶりに彼に会いにいくライブでもあった。
彼――ヨシケンに。



ヨシケンという名のアーティストがいる。
1994年、本名の吉井賢太郎でメジャーデビュー。
しかし、セールスに恵まれず、わずか2年で契約を失う。
その後、1999年に原宿の神宮橋でアコースティックギター1本を手に
ストリートライブをスタート。
神宮橋では知る人ぞ知るミュージシャンとして知名度を上げていく。

2001年5月、ストリートの手売りだけで日本青年館大ホールでワンマンライブ。
2002年1月、渋谷公会堂で2度目のワンマン。
2003年に自主レーベルを設立。
新人発掘、育成にも力を注ぎながらも自らの作品をリリースし、
SHIBUYA-AXや赤坂BLITZなどでのワンマンライブを定期的に行う。
デビュー20周年となる2014年、ニューアルバムをリリース。
12月10日、新宿LOFTでニューアルバム発売記念のワンマンライブ。


僕がヨシケンに出会ったのは2001年。日本青年館のライブを終え、
渋谷公会堂ワンマンに向けて精力的にストリートライブを行っているころだった。
音楽が好きな友人に、「原宿に熱いストリートミュージシャンがいる」と
連れられていったのがはじまりだ。

楽曲の良さはもちろんだが、ヨシケンという男になぜか惹かれた。
ストリートで渋谷公会堂チケットを手売り?
なにを考えているんだ? そんなことできるのか?

ヨシケンは、できるとかできないを言う前にやる男だった。
その一心な姿が、カッコよかった。
そして僕は渋谷公会堂公演や翌年のSHIBUYA-AX公演にも足を運び
また、彼に会うためにストリートやライブハウスなどにも時々顔を出していたのだが
結婚や、その先の出産など僕自身の人生のステージが変化するとともに
少しずつ足が遠のいていき、およそ10年の月日が経っていた。

だが最近、Facebookを通じてヨシケンからメッセージが届いた。
たまたま僕のことを見つけて覚えていてくれたらしい。
あるいは、ライブの集客のためもあったのかもしれない。
でも、僕はそれがとてもうれしかった。短いメッセージのやりとりをさせていただき、
そして、10年ぶりに会いにいくことにしたのだ。

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予定よりも仕事が伸びてしまい、
会場につくとすでにライブは始まっていた。
そして、ステージの上には確かに、彼がいた。

「……次の曲は……“EDEN”」

ちょうど曲がスタートするタイミングで、テンポの良いロックナンバーがはじまった。
あとでセットリストを確認したらすでに5曲目だった。

「懐かしいな」
しばらくぶりに旧友に会いにきたような、そんな気持ちになる。
でも感傷的になるのはここまで。目の前で歌っている男はまぎれもない、現在のヨシケンだ。
ここからライブに集中する。

続いて演奏した2曲もアップテンポな曲。はじめて聞く曲なので、
おそらくともにニューアルバムからの曲だろう。

歌い終わってMC。
「昔はラブソングが嫌いだった。でも、音楽を突き詰めていくと
ロックナンバーもラブソングも同じ。いまは、ラブソングも歌えるよ」

そして歌い出したのが“小さな恋のstory”。
(君だけが、ぼくの全て。君を離さない。君だけを、愛してる……)
そんな歌詞の静かなラブソングをやさしく歌い上げる。

再びMCを挟んで次の曲は“俺だけのLADYに…”。ジャジーなキーボードの旋律が心地良い。
その次もスローテンポな曲“ガラスの恋人たち”。

ここで再びMCが入りメンバー紹介。

「ギター、ジョニー宮路」
「ベース、矢坂俊宏」
「ドラム、jimboちゃん」
「キーボード、板倉雅一」
「そしてギター、久保田邦夫」

宮路さんや久保田さんは僕がはじめてヨシケンのライブに
足を運んだ当時からバックバンドで演奏しているメンバーだ。
これだけ長い期間にわたって同じメンバーが演奏していることも珍しいのではないだろうか。

一瞬の静寂の後、「俺がクリスマス前にこの曲を歌わないと思ったか!」
という雄叫びとともに歌ったナンバーは“失恋時代”。
「生きてるか!? 吠えてるか!?」というサビが胸に刺さるこの曲は
4thアルバム『ラスト・ホライゾン』からのナンバー。
失恋ソングだが、アップテンポでポジティブなパワーをもらえる秀曲だ。

「幸せになろう! 心にいつも、アイ・ラブ・ユー!」
高く吠えたヨシケンは間髪いれずに「声聞かせてくれよ!」と
同じアルバムから“BOYS & STYLE”でベースアップ。
サビで両拳を突き上げるヨシケン。このパフォーマンスも昔のままだ。

「いまから歌うのは、渋谷で携帯で歌詞つくったんだよな」と
短いMCを入れて奏でるのは“溺れるフィッシュ”。
アコースティックギターのイントロで軽快に歌い出したと思えば
一転、リズミカルなテンポに転調。カラダが自然に動き出す。

「Are you ready!? Come on baby!!」
ヨシケンがオーディエンスフロアに降りて客を煽り、無数の拳が突き上げられる。
その流れのまま“チャンネルゼロ”へ。ライブのボルテージも高まっている。

「もっと歌おうぜ、飛べるかい!?」

次の“JUMP”はその名のとおりの爽快なロックチューン。
サビでは「オイ! オイ! オイ!」と客がノっている。

「曲は、誰かに、みんなに、聞いてもらってはじめて成立すると思う。
今日は、聞いてもらってありがとう……」

ここで入ったMCで、ライブツアーが行われることと、
ツアーファイナルが、6月24日、同じ新宿LOFTで行われることが発表される。
また、2002年の渋谷公会堂ライブDVDが再発されることも同じくアナウンスされた。

そして次の言葉を聞いた瞬間、僕のハートは一気にヒートアップする。

「1999年、僕はヨシケンになって原宿で歌いはじめました。
その当時、こんな曲をやっていました……ラヴ☆ジェッター」

ラヴ☆ジェッター!? ラヴ☆ジェッターだって!?

ラヴ☆ジェッターは、ヨシケンがリリースした1stシングル。

(ミサイルとストロボ、アイスクリームメーカーとレーザービーム……最新型だぜラヴジェッター……)
静かなイントロから激しく転調していくこの曲は、当時のヨシケン・アンセムのひとつ。
まさか今でもこの曲を演っていて、この日に聴けるなんて!

「今日、ここに来ている皆、お前たち、自分が、正しいと思ったことを貫け!!」
メッセージも昔のままだ。この人は、ブレていない。

(翼をください…お前たちも、天使になれるぜ…)
ラヴ☆ジェッターの余韻のままに歌った“傷だらけの天使たち”で本編は終了。

そしてアンコール。その1曲目はこれもオールドファンにうれしい
ヨシケン・アンセム中のアンセム、“ブリッジ”

(明日へかかる橋の上で立ち止まる……悲しくなんかはない……どこまでも歩いてゆくのさ)

当時のステージだった神宮橋を歌ったともいわれるこの曲、
もともとは2000年に2ndシングルとして発売されたものだが
7thアルバム『MY ROCK’N ROLL IS NOT DEAD』にも再録されている。
この曲は……とにかく聴いてほしい。聴けば、わかるから。

「まだ行けるか!?まだ飛べるか!?」
再び“JUMP”で盛り上がり、ラストソングへ。

「人は皆、誰でも、心の深い森の中で迷子になっている。
迷ったら、悩んだらここに来い! 俺が歌っている、この場所へ!」

最後の曲は“Baby Come Back”。
全てを歌い終えたあとのヨシケンは、子どものように無邪気な笑顔をしていた。


10年で変わったものがあり、変わっていないものがある。
その間にそれぞれが通ってきた道はもちろん違うし、その月日を思えば、
ライブハウスで共有したわずかな時間なんてほんの一瞬。
でも、時にはその一瞬が人生を変えてしまうことだってある。

ずっと音楽の道で一途に生きてきたヨシケンと、
ずっと自分の生きる道を探して彷徨っていた僕。

でも、僕もようやく自分の進む道が、見えてきた気がしています。
今回、直接挨拶をしなかったのは、その道がはっきり見えたとき、貴方に報告したいから。

また、会いにいきます。
今度は、もっと胸を張って、堂々と。


【ヨシケンHP】
http://www.yosi-ken.net/


〜セットリスト〜
1. 自由までの暴走
2. Edge of Life
3. Pearl
4. スカルの指輪
5. EDEN〜名もなき反抗を胸に突き刺して
6. DOWN
7. 黒い翼
8. 小さな恋のstory
9. 俺だけのLADYに…
10. ガラスの恋人たち
11. 失恋時代
12. BOY & STYLE
13. 溺れるフィッシュ
14. チャンネルゼロ
15. JUMP
16. ラヴ☆ジェッター
17. 傷だらけの天使たち

Encore
1. ブリッジ
2. JUMP
3. Baby Come Back


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2015年6月24日、新宿LOFTでツアーファイナル。


※ステージ写真も載せたかったのですが、関係者以外の撮影はNGとのことでしたので、演奏中の写真は撮っていません。




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